外出から帰り、暗闇の中に梅が匂うとき、私は春の前触れを知る。そして同時に、王朝の人々の生活を思わせるような、春風駘蕩とした気分になる。思い浮かぶのは紀友則の、 君ならで誰にか見せぬ梅の花 色をも香をもしる人ぞしる 友則は貫之の従兄弟で、貫之とともに『古今集』の編纂に携わったが、完了を見ることなく、官位も低いままに終わった。この歌には、そうした友則の運命のはかなさがあると思うが、ほのかな梅の香が、その間を余計に増幅させる。
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